5月中旬に出発を控えた4月のある日。
ようやく長く待ち続けていたカナダ学生ビザの発給許可がおり、ホームステイ先の情報も届きました。
手続きを始めてからここまで、書類の準備、英語の翻訳証明、そしてひたすら待ち続けた移民局からの通知。やっと届いた「許可」の文字を見た瞬間、胸の奥の緊張がほどけたような気がしました。
ぎりぎりになって発給許可された学生ビザ
カナダの高校入学は9月から。
けれども息子は、現地生活に慣れるために早めの5月出発を予定していました。
出発まであと1か月。それなのに、ビザの許可が一向におりない。
エージェントの担当者も「今、カナダ移民局の審査が非常に混み合っていて……」とやきもきした様子で、私たちも毎日メールチェックが日課になっていました。
不安ばかりが募るなか、ようやく留学エージェントから「無事、学生ビザの許可が下りました!」という一報が入りました。
「これでようやくスタートラインに立てたんだ」と実感した一瞬でした。
ビザが遅れることも珍しくない現実
話を聞くと、ビザ発給が遅れるケースは実は珍しくないそうです。
特に春先は、9月入学に向けて世界中から申請が殺到するため、移民局の処理が追いつかなくなるとのこと。
どんなに準備を早く進めていても、審査スピードだけはどうにもできません。
移民局から見れば、ひとりの留学生が「いつ入国したいか」「どんな事情があるか」なんて関係ない。あくまで、淡々と書類を審査して、問題がなければ発給する――ただそれだけのこと。
わかってはいるけれど、出発の準備がすべてこの「許可」にかかっていると思うと、気が気ではありませんでした。
航空券の手配、ホームステイの調整、海外保険、荷物の発送など、すべてがビザに連動しています。ひとつの遅れが ドミノ のように他のスケジュールへ影響していく。
今回ほど「早めの準備が大事」と痛感したことはありません。
もしこれを自分たちだけで進めていたら、おそらく申請のタイミングも読み違えていたと思います。慣れない書類、英語でのやり取り、そして審査状況の確認。留学エージェントのサポートがなければ、ここまでスムーズには進まなかったでしょう。

やっぱり頼ってよかった
それが正直な感想でした。
とにもかくにも、一安心です。
3年間お世話になるホームステイ先の決定
ビザの許可が下りたタイミングで、BC州の教育委員会から留学エージェント経由でホームステイ情報が届きました。
こちらの記事でもお伝えしましたが、カナダの公立高校は、日本でいうところの都立高校や県立高校のように州の教育機関がホームステイ情報を管理しており、斡旋される家庭には厳しい審査基準があります。
住環境・安全性・受け入れ実績など、さまざまな項目をクリアした家庭だけが登録されるのです。
その分、他地域と比べると若干費用は高めではありますが、まだ15歳の息子を預けるにあたり、「信頼できる環境で生活できる」という安心感は何よりの魅力です。


息子がお世話になるのは、初老のご夫婦が住む落ち着いた家庭。
成人した2人の子どもが家を出た後、その部屋を活用して留学生を受け入れているとのことでした。
家は、学校から徒歩約40分の閑静な住宅街。
通学には少し距離がありますが、周囲には同じ高校に通う現地の子どもたちも多く、バスも利用できるとのこと。静かな環境で、集中して生活できそうです。
息子はこの家に、9月から3年間お世話になる予定です。
学区からは「到着前にホストファミリーと連絡を取ること」を推奨されており、早速、自己紹介のメールを送りました。



はじめまして、日本からメールしています。
15歳で、英語はまだ上手ではありませんが、勉強中です。
運動が好きで、特にサッカーが好きなので、カナダではたくさんのスポーツをしたいと思います。
カナダは初めてなので少し緊張していますが、わくわくもしています。
あなた方にお会いできるのを楽しみにしています。
よろしくお願いします。
メールには、家族写真と中学校のサッカー部の仲間たちとの写真を添付。
やや稚拙にも思える文章ではありますが、基本的には本人の言葉で書かせました。
数日後、ホストマザーからとても温かい返信が届きました。
「あなたを迎えるのを楽しみにしています」
そんな言葉に、緊張していた息子の表情が少しほころんだのを覚えています。
ホームステイ先の滞在期間と夏の過ごし方
BC州のホームステイには明確なルールがあります。
学区を通じて斡旋される滞在期間は「9月1日から翌年6月30日までの10か月間」。
学校の学期が終了する6月下旬からは、年次が変わる大きな休み「サマーバケーション」に入るため、ホストファミリーは7〜8月の2か月間は留学生を受け入れる義務がありません。
つまり、この期間はホストも夏休み。
留学生たちは一度母国へ帰国したり、短期のホームステイや語学プログラムに参加したりして過ごします。
とはいえ、すべての生徒が簡単に帰国できるわけではありません。
夏の航空券は高騰しますし、長距離フライトを短期間で往復するのは負担も大きい。
そんなときは、現地の友人宅に数週間だけ滞在したり、別の地域の語学学校へ通ったりと、それぞれが工夫して過ごすようです。
ホストファミリー側も、この期間を使って家族旅行に出かけたり、別の留学生を受け入れたりすることが多いのだとか。
お互いに少し距離を置くことで、9月に再会したときにまた新鮮な関係を築ける――そんなリズムが、長期滞在にはちょうどいいのかもしれません。
もうひとつのホームステイ先
さて、ここでひとつ問題が。
息子の出発は5月だけれど、学区のホームステイが始まるのは9月から。
つまり、5〜8月の約4か月は別の滞在先を確保する必要がありました。
幸い、エージェントを通してすぐに短期ホームステイ先が見つかりました。
こちらは5人家族のにぎやかな家庭。高校生・中学生・小学生の3人の子どもがいて、毎日がとても活発なのだそうです。学校までは電車で1時間弱と少し距離がありますが、むしろ現地の通学体験としては良い経験になりそうです。
メールを送ると、すぐに明るい返信が届きました。
「7月にはファミリースポーツフェス、8月にはサマーキャンプに行く予定だから、一緒に楽しもうね!」
そんなメッセージに、息子の緊張も一気にほぐれた様子でした。
にぎやかな家族と過ごす夏。そのあと9月からは落ち着いた夫婦の家庭へ。異なるタイプの家庭を経験できることは、息子にとって大きな学びになるはずです。
いろんな価値観や暮らし方を知ることで、人との関わり方も自然と広がっていく。それこそが、留学の醍醐味かもしれません。
出発を前にして
徐々に出発の準備が整ってきました。
学生ビザ、ホームステイ、学校、そして持ち物リスト―――どれもが少しずつ形になり、ようやく現実味を帯びてきました。
おそらく息子は毎日のように「あと〇日」とカウントダウンをしながら、少しずつ心の準備を整えていたことと思います。初めての単身での海外滞在。不安よりも、「ようやく始まる」という期待の方が大きかったように見えました。
留学は、書類をそろえて飛行機に乗るだけの出来事ではなく、準備の過程そのものがすでに学びの連続です。
ひとつひとつの手続きを終えるたびに、息子の「自立」という言葉が少しずつ現実になっていくように感じています。









